ホトリニテ × 熟成兄弟

山梨県山梨市にある乙女湖の湖畔に佇む宿ホトリニテ

このホトリニテで2020年6月から開始した「アウトドアサウナ×熟成肉」プランは、1年後の2021年10月31日で一旦終わりを迎えます。熟成兄弟は、おもてなしランキング世界2位を獲得した実績もあるホトリニテ店主高村さんの仕事ぶりを、裏側も含めて目の前で見させて貰いました。

今回、ホトリニテの原点、仕事に対する美学、ホトリニテの今後について聞いてみました。

熟成兄弟との出会いのきっかけは、2020年5月。当時ボクらは、熟成肉作りが完成し、サウナブームが燻りかけていたこの業界に特化した営業活動を決めたものの、肝心のアウトドアサウナや、その後のサウナ飯で「熟成肉」が未体験。先ずは自分たちで体験する必要がありました。熟成肉の勉強をしていく上で、「発酵」というジャンルの繋がりで出会った山梨にある五味醤油さんの社長が、テントサウナを所有していたこともあり、山梨で体験させて頂くことに。そしてその場所が、ホトリニテでした。高村さんと出会い、人生初のアウトドアサウナを体験し、サ飯としての熟成肉をスタートしました。

地域を伝えていくという使命

— 前にホトリニテの原点について話されていました。原点というか、使命というか、哲学というか。それは今も同じでしょうか?

はい。変わらないですね。山中湖からこの土地(乙女湖)に来て約2年が経ちますが、むしろ今の方がより強くなってきています。ホトリニテの原点は、この地域を伝えていくことだと考えています。そのミッションに立ち戻ったとき、自然や、宿を取り巻く時間を伝えていくことが大切だと改めて感じています。とんがった宿が一つあることで、その県全体の需要を引き上げることがあります。雑誌に取り上げられたり、口コミで広まったり。その1点しか狙っていない、というと大袈裟ですが、その地域に還元寄与できることを考えると、本当にそれしかないような気がしています。

–高村さんは、サウナの魅力にはかなり早くに気づかれていましたよね。僕たちが出会ったのは2019年5月、今から1年ちょっと前ですね。それよりも前からサウナの魅力には気づいていたわけですね。


もともと素泊まりの宿としてスタートしようとしていましたが、宿の周りには本当に何もないので、素泊まりは大変だと判断しました。これからどうやっていこうか考えているときに、ネイチャーガイドやサウナのことを考えていました。

自然やアウトドアサウナと熟成肉

–僕たちは、高村さんに出会ったときが初アウトドアサウナでした。もちろんテントサウナも初めてで、熟成肉を焼く練習して臨んだことを覚えています。サウナに出会う前は、純粋に面白いことを探していました。自分たちも周囲の人も楽しめる何かを模索していました。サウナ後のご飯に特化する前に、空いてるレストランを間借りして、ポップアップイベントをしたことがありました。洒落たバーカウンターがあるレストランで確か8席くらいの。そこで熟成肉を提供しました。そのとき何となくですが、違和感がありました。違和感というか、お客さんの反応の薄さというか。そのとき感じたのは、レストランで提供すると比較対象がシェフやレストランになり、極論ですが、ミシュランシェフと比較される、ということでした。これは大変なことだなと。レストランを主戦場にすることは完全な負け戦だと悟りました。今思い返すと、単純に肉をうまく焼けていなかったり、場慣れしていなかったりと理由は無限に思いつきます。食べるタイミングに関しても、サウナ後は何を食べても美味しいと考えました。それも自然の中でのご飯。素人同然の自分たちが食事を提供し、喜んでもらいやすい場所としてのアウトドアサウナは、非常にラッキーな出会いというか場所選びでした。

–何故活動始めたばかりの熟成兄弟と組んでくれたのでしょうか?

メールで、どれくらい本気で考えていますか?と聞いたことを覚えていますか?私ははっきりと覚えています。熟成兄弟のリソースを全て賭けると返信がきました。ホトリニテは結構リスクを負っているので、本気で一緒にやるなら、一緒にそれなりのリスクを負うことを前提に考えなきゃいけないと感じています。相当の覚悟がないとなかなか難しいと思います。そんな私から見ても熟成兄弟はリスクを負いすぎていたから、何とかしてあげたいと。笑。それで突き動かされました。利益とかそういったことではなくて、あぁ人を動かすのは本気度だなと思いました。そこで二人に惚れました。同じようにリスクを負ってくれているなと

–特に僕たちは勢いだけでしたね。この1年ちょっとの間もトラブル続きでしたよね。ピンチみたいなものは記憶にありますか?

前提としてですが、死ぬ死なないの問題以外は何ともないというのが正直なところです。全く怖くないです。でも、妻にとっては、怖いことは多々あります。当たり前の話です。自分に降りかかるものは自分で処理できますが、妻は私と心も体も違うから、妻の感じ方とかは守備範囲外といいますか。それで妻に怒られるのとかは怖いですね笑 
妻からは、仕事に対する細かさや配慮の仕方がピリピリしすぎて圧がすごいと言われたことがあります。

–一緒に仕事していてあまりピリピリしている印象がなかった気がします。

ありがとうございます。たぶん宿が持っている実績や評価っていうのは妻の精神をすり減らしたのと引き換えだと感じています。ホトリニテを10年以上やってきたけど、その中で勝ち取ってきたものは、妻の精神を犠牲にしてきた。普通の旅館で適当にやるならいいけど、クオリティを世界水準にもっていく、ハイスペックなことを単に誇示するだけではない価値を提供すると決めたからには、自分たちの精神的なものを犠牲にしないと成り立たないものなのかなと感じています。

–このプランで楽しかったこと、熟成兄弟を漢字で表すとどんなイメージですか?

全部楽しかったです。妻に漢字一文字の件を聞いてみましたが即答でした。“笑”っていう字。なるほどなぁと思いました。即答したということは、本当に楽しかったんだと思います。そこで救われた部分もあるというか。

ホトリニテの今後

–ホトリニテって2033年に閉館されますよね。残りの期間でやりたいことはあるのでしょうか?去年はよく、今はまだ30%ぐらいしか出来てないって高村さんが言っていたことを記憶しています。

今は50%まできました。浄瑠璃の名言に、名人は離れる、という言葉があります。下手は凝る、上手はきれいに見せる、名人は離れる。下手くそは凝ることしか出来ないし、上手な人はきれに見せるだけでその上はない、名人は型を作って、その意識が入っていかないように、型から離れる、という意味合いなんですよ。(たぶん、自分なりの解釈ですが)お客様より、今のホトリニテは、比べるものがないと喜んでくれています。そういう強みを得ました。ようやく型ができてきた。型ができるまでが半分で、大事なのはそこからということになります。やっとスタートラインに立った感じです。どのように型から離れるかを今後見つけていきたいと考えています。

ネイチャーツアーで土地の魅力を伝えていくことは型になりつつあります。もう少しでこの型は出来上がるので、この型をどう離れるか。それができてようやくという感じです。サウナプランはいったん中止となりますが、それはホトリニテの世界観、使命みたいなものを考えたとき、ネイチャーツアーに絞るほうが良いと決断したからです。この判断が正しいかどうかは分かりませんし、本当に悩みました。ただ、サウナプランだけでは、どうしても周囲の自然をお伝えするのは難しいということは感じています。

熟成兄弟の今後

–今だからこそ感じることですが、自然やサウナを選んで良かったことの一つに、サウナのリラックス効果や一体感というものが挙げられます。言語化できていませんが、肉には場を盛り上げたり、人を結びつける不思議な力があると考えています。生きていく上で人間関係が非常に大切だと考えていて、肉の不思議な力が人間関係を良くするんじゃないかとも考えています。最近聞いた話で面白かったのでが、長寿で有名なイタリアにある島の話です。40年ぐらいに渡って島民の長寿の原因を調査したところ、長寿要因の第一位は、ぶっちぎりで人間関係だったそうです。親しい人がいるか、人との交流があるか。これは、別で詳しく話します。そして第二位が睡眠だそうですここでは長寿がいいかの議論はしないでおきます。僕が思い出すのは、昔、友人に何気なく誘われた遊びのおかげで元気になれたことがあることです。あと、バンコクに駐在していたとき、日本人が密集して住んでいたので、みんなと非常に距離が近かった。終電も気にせず、別々の会社で働いているのに、ほとんど毎日顔を合わせるといっても過言ではない。東京じゃ考えられない生活でした。熟成兄弟の役割というか使命というか、もともとそんな大したことは考えていなかったのですが、仕事冥利のようなものをあえて挙げるなら、熟成兄弟の商品やサービスが誰かの‟人間関係のきっかけ”になることは、この仕事を通して嬉しいことの一つです。そんなきっかけになれればいいなぁと。強引ですが、それが裏テーマの“自分が大切だと想う人の自殺を限りなくゼロにできないか?”に繋がります。ですので、絶対にサウナじゃないといけないわけではありません。それこそ、自然も非常に相性が良いと感じています。今後はサウナプラン以外の形で何か一緒にできることがあるかもしれませんね。あと、僕は睡眠にもかなり自信があります笑。来年あたりには、熟睡兄弟として活動の場を広げているかもしれません。

 いいネーミングですね。是非また一緒に楽しみながら、面白いことをしていきましょう

今回の対談者
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hotorinite 高村 直樹